D1さんとおで

2学期が始まって早くも4週間。教室にいる人数が恐ろしく減りました。

夏休み明けの試験で点数を取れなかった者、先生の一存で看護者としての適性がないと判断された者、クラスの約5分の1の人数が呼び出され、必死の頑張りも虚しく呼び出された者全員が留年もしくは退学を余儀なくされました。
そのほとんどが若い子達でした。確かに、中には我々の目から見てもコイツは・・・・と思いたくなるような子もいるにはいますが、ほとんどは若さ故の至らなさや必死感のなさからくるものでその表面だけを見て結論を出すのはいささか時期尚早ではないかと感じずにはいられません。

入学当初名前で混同されて困ってしまう事で話題にしたD1さんなども、看護職を目指して来ただけあって根はとてもいい子でした。
如何ともし難かった遅刻癖は通学手段を変えることで早々に改善されたし、髪型や服装でも先生から随分と目の敵にされて酷く罵られては短気を起こして帰ってしまうような事もあったけれど「色々言われて悔しいって思うならきちんとできるってトコ見して先生を見返さないかん」と言えばきちんと制服の丈を直し、「顔立ちがいいから髪黒くしても全然おかしくないよ、むしろその方が大人っぽく見えると思うけど」とちょっと背中を押してあげればちゃんと髪を染めて来る、という具合に一歩ずつ前進し入学してから2ヶ月が経つ頃にはもう名前で混同されても許せるなwと思えるくらいに成長してました。


これだけ素直に人の忠告を聞ける子は今時の子にしては非常に珍しいと思います。いくら素直でもただ人に言われた通りに行動するだけっていうのもそれはそれで困るんだけど、彼女は我々が「それは違うと思うよ」とか「私も若い時はそうだったけど」などと言った言葉を自分なりに色々考えて今より自分を良くするにはどうすればいいのか模索していたと思います。時にはその考えが及ばない事もそれはあるだろうけど、それが普通であって、その繰り返しで人は向上していくものだと思います。
なので考える余裕を与えず「ああするものです。こうするものです。」と決め付け押し付けられると釈然としなくて、結果的には同じ事でも先生の言う事を素直に聞けなかったのではないかと思われます。どちらにしても経験が足りない割りに変なポリシーだけは一人前でそれを「自分を持ってる」とか目上に屈しない事がカッコイイとか勘違いしてるアーパーで扱いに困る若者よりも遥かに自分というものをしっかり持っているし、確実に伸びる芽を持っているとおでには思えました。

成績の方も如何ともし難かったけれども勉強会を開いて丁寧に教えてあげれば再試験ではちゃんと90点台でクリアしてましたし、やればできる子なんだと、て言うかいくら成績がヤバいからって30歳前後のオバサン達の勉強会に喜んでついて来て和気藹々とできる18歳の娘はそうそういるもんじゃないと思います。本当に妙な垣根のないいい子で、この子ならきっと患者さんから「あの看護婦さんにお世話してもらいたい」と言ってもらえるようなナースになれるんじゃないかと思ってました。

それでも先生のイメージはなかなか変わってくれなくてD1さんが我々に迷惑をかけているくらいに思っているようだったので再三「先生あの子はいい子ですよ、やる気もあるし今時あんないい子は珍しいですよ」と、それとなく見方を変えてもらえるように売り込んではみたのですが、ほとんど効果はありませんでした。
先生が彼女のドコを見てそんなに気に入らなかったのか全くわかりませんし、むしろ長所には目を向けていなかったのではないか、という気がしないでもないです。

人にはそれぞれの個性があるように、成長スピードや答え出すのにかかる時間もそれぞれ違うし、厳しくされて伸びる子もいれば褒められて伸びる子もいる。
D1さんはどちらかと言えば全てがゆっくり気味で人から「ダメな子だ」と言われれば本当に自分はダメな子と思い込んでしまうけれども「あんたはいい子だしやればできるんだよ」と自信を持たせてあげれば結果を出せる典型的なやればできる子タイプと思います。
まあ、それを「手がかかる」とか「とろくさい」とか言われれば身も蓋もありませんが、一つの答えに辿り着くのに最短コースで答えを導き出せる者もいれば回り道を経て答えに辿り着く者もいる。そりゃあ最短コースで合理的かつ迅速に答えを導き出せる人間がベストである事は否めないけれども最初からそれができるのは天才とか秀才とかいうレベルの人達で、そういう人達はぶっちゃけ人から教えてもらう必要のない人種なワケです。まあせっかくだから聞いてはいるけれども、といったようなカンジの。大事なのはどんなに紆余曲折を経ても正しい方向に辿り着くことのできる人間性じゃないかと、多少時間がかかっても答えを導き出せればいいんじゃないかと、人生山も谷もある方が人間的に豊かなんじゃないかと思うような次第ですが、どうやらそれではダメだったようです。

もうこの頃にはD1さんを妹のように、と言うか現実の妹よりずっと可愛いと思っていたので留年が決定したと聞かされた時は涙が出そうでした。
D1さん的には「お世話になったクラスのみんなにきちんと挨拶できなかったのが一番辛い」と言っててそんな事態になったら普通自分の事でイッパイイッパイでそれどころじゃないと思うんだけれども休学に入ったあとクラスのみんなにと菓子折りを持ってくるような、こんないい子がどうして・・・・と泣けてきます。もっと親身になって助けてあげられなかった事が今もって悔やまれます。
今回同じように落とされた子の中には成績は良かったのにそれ以外の何かがいけなくて点数に関係なく辞めざるを得なかった子、逆に普段の行いも良く他に非のうちどころがないにも関わらずあとたった1点が足りなかったために教室を去った子もいました。
そういう人の事を思えば自分が留年になるのは仕方ない、とD1さんは言いましたが、学校規定にある落第の基準は単位と出席日数のみで重大な違反や過失があった場合にはこの限りではないのかもしれませんがこれは正当な処置なのか何なのか理解できず残された我々の中にはそのやり方やあやふやな基準にただただ得心できぬという思いが募ります。明日は我が身かもしれないけどそれでも募ります。一部、自分の敵がいなくなって清々してる人もいるようですが、大部分の人が落第の理由と人選に対して不満を抱いているようです。

今年は例年に比べ異例に社会経験のある入学者が多く8割くらいが20代後半以上のそれなりの職歴を持った大人です。なので、若い子の頼りなさが一層目立ったと言うか、余計にチャラチャラして見えたのかもしれません。そりゃあ、親に金を出してもらって年間いくら掛かっているのかもロクに知らずに通ってる人間と自分の貯金を切り崩し生活を切り詰めあるいは借金までして通っている人間では必死度が全然違って当然です。でも、親の金で通ってて必死度が足りないから中途半端な夢なのかと言えばそうとは言い切れないものだと思います。
昨年度まではほとんどの生徒がそういった若年層で悲壮感を漂わせて若い子に負けるまいと死に物狂いで頑張るオバサンは圧倒的少数だったにも関わらず自主的に退学した者と怪我や事故で休学した者以外ほぼ全員が2年に進級しています。
はじめは2年生が1年生の半分くらいしかいないと思ってましたが実習組がいなかったので半分に見えただけで、実際には辞めらされたり成績で落とされたりした人はほとんどいないよ、と2年生は言ってました。そう言ってしまった手前2年生からも今年に限って厳しすぎるんじゃないかという抗議の声があったらしいですが逆に口を出すなと一喝されたとか。
理由はどうであれ、これはお世辞にも公平とは言い難い、と。

よしんばこれが正当な権利の行使であったとしても毎週5日半日間同じ空間を共有している我々の目から見て「辞めらされるほどではない」と感じる者が去り「自分が病気になってもコイツにだけは看護されたくねぇな」と思いたくなる者が要領良く生き残っている現状は決して納得のいくものではありません。

おでは公立の学校にしか通った事がないのでよくわかりませんが、初期段階でそこそこモノになってる者以外はスパンスパンと切り捨てていく、専門学校って大体そういうモノなんでしょうかね。なんだかここ1〜2週間教室の空気が殺伐としてて落ち着きません。
まあ、これも人生の山や谷というモノなのかもしれませんがね。

D1さんは来年復学して頑張ると言っています。我々としても、また可愛らしいD1さんが同じ学校に戻ってきてくれるのは嬉しいし頑張ってもらいたいと思います。しかし、その一方でD1さんの将来のためを考えるとこの学校に戻るより多少スケジュールや内容的なモノがキツくてもしっかり補うところは補って上へ行かせてくれる学校へ移った方がよいのではないか、という気もします。自分の力だけ頑張れると信じてはあげたいですが、来年挫折しそうな彼女を見るより3年後4年後に看護師として同じフィールドで再会した方がいい。そう思えなくもないです。